ARTHUR-AQUAMARINE's MEMO

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◇ 01 人間とはなにか

  • 人間は理性を持つが、無意識の心の働きにも影響されていることを理解しよう。
  • 適応行動とパーソナリティの分析を理解しよう。
  • パーソナリティ形成における、社会化と個性化の理論を理解しよう。

① さまざまな人間観

西洋哲学の人間観
(1) ピコ = デラ = ミランドラ の説
 かつて、ルネサンス期(15世紀)のイタリアでは、人文主義者(ヒューマニスト)たちが、ギリシア・ローマ時代の文献の研究を行うことにより、人間(human being)と他の動物との違いを探ろうとした。その代表者ピコ = デラ = ミランドラは、神が定めた法則に縛られている動物や植物に対して、神により自由意志を与えられた人間のみが、自分で自分のあり方を決定できるとした。
(2) ロック の説
 一方、17世紀に活躍したイギリスのロックは、経験論の立場に立ち、人間の心の中にある観念にはあらかじめ神によって与えられたものがあるとする生得観念 ※(1)の考えを否定し(タブラ = ラサ)、すべての観念は経験から生まれるとした。ここでいう経験とは感覚と内省 ※(2)のことである。ロックは、自己意識を持っていることを人間の特質とし、そのような人間は自分の欲望を反省して自分をコントロールできるとした。そして、このような自己意識を持つ存在を、人格(person) ※(3)とよんだ。
理性を持った存在としての人間
 いま見てきたような西洋近代哲学の人間観は、人間は理性=(ロゴス)を持つ存在であるとする古代ギリシア以来の伝統的な人間観に立脚するものである。また、ヒトの学名であるホモ = サピエンス ※(4)も、人間の本質を英知に優れているところとする同様の文脈から生まれた言葉で、「知恵のある人」「賢い人」を意味し、「英知人」と訳されることもある。
精神分析学の台頭
 近代の理性主義は、理性の働きによって得られた科学や技術により、自然の支配をおしすすめた。また、理性を用いて作られた法や道徳により、社会を組織してきた。しかし、それは同時に「人間の内なる自然」(感情や衝動や本能など)を抑圧し、統制してきたともいえる。
 このような観点に立ち、人間の心の大部分を占める無意識の領域に焦点を当て、性欲や破壊欲などに促された非合理的ともいえる人間の複雑な行動を解明しようとしたのが、20世紀初頭に台頭した精神分析学であり、その創始者がフロイトである。
さまざまな思想家による多様な人間像
ホモ = サピエンス
(英知人)
リンネ(1707~78 スウェーデンの植物学者)が動植物の分類表を作る際にヒトに与えた名称。
ホモ = ファーベル
(工作人)
ベルグソン(1859~1941 フランスの哲学者)の用語。
道具を作り操るという人間の創造的特性に着目した。
ホモ = ルーデンス
(遊戯人)
ホイジンガ(1872~1945 オランダの歴史家)の用語。
人間の特性を生活の必要性から離れた遊戯を行うところにみた
ホモ = シンボリクス
(象徴を操る動物)
カッシーラー(1874~1945 ドイツの哲学者)の用語。
他者と交わる際に、言語や芸術を用いる人間の特性に注目した。
ホモ = レリギオス
(宗教人)
神を信じ、祈りを捧げるところに人間の特性をみた。
フロイトの人間把握
(1) 深層心理の解明
 フロイトの人間把握の基盤は、無意識の心の働きが人間の行動に影響しているという点にある。フロイトは、当初は人間の無意識を催眠術の利用によって解明しようとしたが、催眠術はすべての人に有効ではなかった。そこで、覚醒時でも心の奥底にあるものを引き出せる方法(自由連想法 ※(6))を考案した。さらにフロイトは夢の分析を通して人間の深層心理を解明し得るとも考えた。
(2) 夢の作業
 フロイトは、人間が夢を見るのは、無意識の欲望を充足するためであると考えた。夢は、眠りから覚めて記憶されるときに、歪曲や変形を受けて、不可解なものになってしまう。この働きをフロイトは夢の作業(dream work)とよんだ。そして、これを逆にたどれば、本来の欲望が明らかにできると考えた。
(3) 合成と逆転
 たとえば、フロイト自身が次のような夢をみた。≪友人が出てきた。しかし友人の顔はいつもより長めに見え、黄色いひげが目立っていた。私は彼に強い親愛感を抱いていた≫フロイトが、長めの顔と黄色いひげから連想したのは、会社の経営に失敗した彼の叔父のことだった。夢の中の友人は、友人と叔父の≪合成≫であった。また、友人とは、当時フロイトとウィーン大学医学部の教授ポストをめぐって争っていた人物であった。友人への親愛感とは実は、友人への憎しみという否定的感情の≪逆転≫だったのである。つまり、「友人は事業に失敗した私の叔父のように、教授になるのを失敗すればいい」というのが本来の願望であった。
(4) 心の構造
 フロイトは、人間の心の構造を3つの層に分けて考えた。
【1】エス(Es) あるいは イド(Ido) …
 人間の行動のエネルギーを蓄えている無意識の層。人間の心の中には、リピドー(=性衝動、生の欲望) ※(7)をはじめ、さまざまな欲望が意識下に抑圧されている。快を求め、不快を避けるという快感(快楽)原則に従う。
【2】自我(Ego) …
 自分を取り巻く集団・社会・文化といった現実の中で、エスの欲求を少しずつ満足させていこうとする現実原則に従う。そのため知覚や思考などの機能が発達する。
【3】超自我(super-ego) …
 内部からの欲求を抑圧したり、禁止したりする道徳的意識。子供の頃、親から叱られたり、注意されたりする中で形成される両親と、親の「こうあるべき」という価値観が内面化された自我理想からなる。
(5) エディプス = コンプレックス
 フロイトは、人間が無意識のうちに抱くエディプス = コンプレックス ※(8)という概念を打ち立てた。それは次のようなものである。
 5、6歳の男の子は、母親の愛を独占しようとして父親を邪魔に思い、憎むようになる。このような複雑な感情(コンプレックス)は、無意識の領域に埋め込まれていくが、そこからアンビバレンス(相反感情) ※(9)に基づく不安や罪悪感が生まれる。しかし、やがて自分も母親に愛してもらえる父親のような男になろうとし、同性の親への同一視を通じてエディプス = コンプレックスは克服され、心理的に充足していく。
 フロイトのエディプス = コンプレックス論は、男の子の性別受入れの理論として定着しているが、女の子の性別受入れを説明できないとして一部のフェミニストなどから批判がある。
ユングの人間把握
 フロイトが個人の無意識に焦点を当てたのに対して、ユングは人類全体に共通する集合的無意識に焦点を当てた。
(1) 集合的無意識
 集合的無意識とは、人間に共通するイメージを持つ無意識の領域である。それは、個人的体験以前に、人類が太古から繰り返してきた無数の体験が積み重なってできたものである。ユングは、人の心は無意識の最も深い層では個人に属さず「人類」に統合され、集合的無意識の内容(プラトンのイデアにあたる普遍的な型)こそが個々人の精神活動の基盤をなすとして神話などを分析した。
(2) 元型
 ユングは、神話の中に、人類共通のアニマ(男性の心の中で抑圧されている女性的特質)、アニムス(女性の中で抑圧されている男性的特質)、グレートマザー(太母)、シャドウ(影)などの元型(アーキタイプス)が見られると説いた。
『人間』の定義  人間は理性ロゴス)を持つ存在
人間 … 自由意志を持ち、自分のありかたを決定できる存在(ピコ = デラ = ミランドラ
人格 … 自己意識を持つ存在、内省できる存在(ロック
⇒ ホモ = サピエンス英知人
精神分析学  理性以外の無意識の領域に着目
フロイト … 個人的無意識   ユング … 集合的無意識 
注釈
(1) 生得観念
人間が心の中に生まれつき持っている印象やイメージ。たとえば善悪の価値観念など。
(2) 内省
自分の考えや行動を省みること。反省。
(3) 人格(Person)
生命倫理学のパーソン論につながる。
(4) ホモ = サピエンス
ホモ(homo)とはラテン語で「ヒト」のこと。絶滅したネアンデルタール人も知能が高かったことが判明し、ホモ = サピエンス類に属するものとされる。その場合、現生人類をホモ = サピエンス = サピエンスとよぶ。
フロイト
- Sigmund Freud [1856~1939]
 オーストリアの精神医学者で、精神分析学の創始者。ウィーン大学の医学部で神経細胞の研究を行う。29歳の時、フランスのパリに留学し、神経症学の大家シャルコーの下で催眠実験を見学し、心理的要因によって手足の麻痺などのヒステリーが起こることを学んだ。帰国後、30歳の時ウィーンで開業し、その経験を理論化していった。性の本能を中心とする彼の理論は、学会からの閉め出しにあい、反道徳的であるとの非難を受けたが、次第にアドラー ※(5)やユングなどの優秀な弟子が集まり、心理学のみならず文学・社会学などさまざまな分野に影響を与えた。主著『精神分析学入門』『夢判断』。
(5) アドラー
自身足が不自由だったアドラー(オーストリア 1870~1937)は、優越感や劣等感といった自尊感情をテーマとした。人間はさまざまな劣等感を抱くが、それを克服しようとすることが人間の心的動力になるとし、それを補償とよんだ。
(6) 自由連想法
寝椅子に横たわらせ、リラックスした状態で、頭に浮かぶことを何でもすべて語らせる方法。分析家は、その話の中に共通するテーマを見出し、意識化されていないことに言葉を与え、患者が隠そうとしていることを「解釈」し、患者が自分では見つめることのできない考えや感情を意識化し理解していくことを手助けする。患者はその解釈を受け入れることでカタルシス(=浄化)を得ることができ、緊張がゆるめられ、症状が解消されていく。
(7) リピドー
後期のフロイトは、リピドーの代わりにエロスという言葉を用いて、性の本能は生の本能であるとした。また、人間はエロスとは対極的なタナトス(=死の本能)も持つため、戦争などの破壊行為が起こると考えた。
神経症
 神経症とは、ドイツ語の「ノイローゼ Neurose」の訳語。主に心理的な原因によって、心身のはたらきに障害が出ているものの、全般的な現実に対する判断能力は保たれている場合を指す。これに対し、幻覚や妄想や意識障害によって、現実を吟味する能力が失われている場合を精神(分裂)病といい、近年は統合失調症とよんでいる。
(8) エディプス = コンプレックス
フロイトは、この概念を、王である父親を殺し実の母親と結ばれるという古代ギリシアのソフォクレスの悲劇『エディプス王』から着想したといわれる。
(9) アンビバレンス(相反感情)
フロイトは、「親密な対人関係はほとんどすべてが、拒絶し対立するような感情のしこりを生む」という、アンビバレンス(相反感情)の概念を説明する際にショーペンハウアーの寓話であるやまあらしのジレンマを紹介している。冬の寒さの中で接近し身体を温めあおうとすれば、お互いの棘で傷つけあってしまうというものである。
フロイトのヒステリー論
 神経症やヒステリーの患者は、極端に恐ろしいとか、苦しい、恥ずかしいなどの体験(=心的外傷トラウマ)を意識下に抑圧してしまっている。その抑圧された不快な感情が出口を求めて、身体症状として出現するのがヒステリーであるとフロイトは考えた。ヒステリーには、全身のけいれん・手足のまひ・目が見えない・声が出ない・不眠などの身体症状を示すものと、記憶障害や多重人格などの意識や記憶の障害を示すものがある。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が近い。
ユング
- Carl Gustav Jung [1875~1961]
 スイスの心理学分析学者。主著『無意識の心理』『心理学と錬金術』。
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◇ 01 人間とはなにか

  • 人間は理性を持つが、無意識の心の働きにも影響されていることを理解しよう。
  • 適応行動とパーソナリティの分析を理解しよう。
  • パーソナリティ形成における、社会化と個性化の理論を理解しよう。

② 適応と個性の形成

適応行動
(1) 欲求
 人間の欲求には、食欲・性欲・休息の欲求など生得的に持つとされる生理的欲求(一次的欲求)と、集団への所属・評価・名誉・自己実現への欲求など社会生活から発生する社会的欲求(二次的欲求)がある。
(2) 欲求不満
 人間は、欲求を満足させることができないとき、イライラや不安が生じて欲求不満フラストレーション frustration)がたまった状態になる。
(3) 近道反応
 欲求不満に対しては、耐力トレランス tolerance)を養い、合理的解決の方法を探ることが求められる。しかし、時には八つ当たりや弱い者いじめなどで欲求不満を解消させようとすることがある。このような行動を近道反応や攻撃反応という。
(4) 防衛機制
 近道反応に頼っても、欲求不満そのものが満たされることはない。そのような場合に、欲求が満たされない現実を変形して受け入れることによって、心のバランスを保とうとすることもある。アンナ = フロイト ※(1)は、これを防衛機制(defense mechanism)あるいは適応規制とよび、分類・整理した。
《 さまざまな防衛機制 》
欲求不満
合理的解決
近道反応
防衛(適応)機制
失敗反応
抑圧
模擬試験の成績が悪いが、そのことは心の奥底に封じ込める。
合理化
試験の結果が悪いのは、自分の学力不足ではなく、出題が悪いからだと考える。
同一視
友達が有名大学に合格したのを、自分のこととして喜ぶ。アニメの主人公のファッションを真似る。
投射
自分がケチのくせに、他人をケチだとなじる。
反動形成
好きな異性に対し、わざと冷たく接する。
逃避
空想への逃避(=白昼夢)、病気への逃避など。
退行
弟ができた兄が、弟に向いた親の関心を取り戻すため、幼い行動をとる。
置換
子供をほしいと思いながら得られない人が、ペットを可愛がる。
代償
スポーツの苦手な生徒が、勉強を頑張り、認められようとする。
昇華
満たされない性的欲求を、社会的に認められた価値のある行動(勉学・スポーツ・芸術など)に転換する。
(5) 葛藤
 3つ以上の欲求が対立して選択が困難となり、行動に移れない状態に陥ることもある。これを葛藤コンフリクト conflict)という。レヴィンは、葛藤を次の3種類に大別した。
【1】接近 - 回避型 ……
「チョコレートを食べたいが、太るのは嫌だ」。親という同一人物が愛着の対象であると同時に、敵意の対象ともなる場合など ※(2)。相反する感情(アンビバレンス)や苛立ちが生じ、長期化すれば不安な気分に陥る。
【2】接近 - 接近型 ……
「カレーも食べたが牛丼も食べたい」。迷いが生じ、後ろ髪をひかれる思いで他方を諦めなければならない。二兎を追うもの、一兎も得ずとなる危険性もある。
【3】回避 - 回避型 ……
「宿題をするのも嫌だし、宿題をしないで叱られるのも嫌だ」。強い不安や鬱が醸成され、神経症的症状に陥りかねない。
精神分析からカウンセリングへ
 アメリカの臨床心理学者ロジャーズ(1902~87)は、フロイト同様、神経症などの患者の治療にあたり、患者の生育歴・環境・パーソナリティなどの情報をもとに、行動変容を促す言動や説明を行っていたが、思うような結果をあげられずにいた。
 そんなある日、問題行動をおこす少年の治療のため、その母親と面接を行っていた際、突然母親が自分と夫との関係や混乱の気持ちなどを語り始めた。そのような面接を続けていくと、夫婦関係が改善されただけでなく、少年の問題行動も消失していった。これ以降、ロジャースは従来の客観的な専門家としての関わり方ではなく、クライエント(来談者) ※(3)の問題探索能力・解決能力を信頼し、患者の話をよく聞き、それに寄り添っていくことを重視する、来談者中心療法(Client-Centered Therapy)とよばれるカウンセリング ※(4)技法を提唱した。
 カウンセラーは、〔1〕クライエントを共感的に理解しようとすること、〔2〕クライエントを無条件に肯定し受け入れようとすること、〔3〕自分自身に正直であること、といった任務を負う。ロジャーズの思想の根底には、フロイトにみられるような原罪的な悲観論とは対照的な、人間には有機体として自己実現する力が自然に備わっているとする楽観的な人間観がある。
パーソナリティと人間の環境への適応
(1) パーソナリティ
 パーソナリティ(personality) ※(5)とは、直接観察することのできない、つくられた概念である。しかし、パーソナリティを仮定することによって、ある人間の行動の特性をより論理的に説明することができる。
(2) パーソナリティの多義性
 昔から、人間の心の働きは、知・情・意という3つの側面に分けられてきた。近年は、知的な個人差を扱うときには知能という用語が、情・意的な個人差 ※(6)を扱うときには性格という用語が、知・情・意すべてを含めた個人差を扱うときには、その人特有の「人となり」あるいは個性という意味も込めて、パーソナリティ ※(7)という用語が使われている。
(3) 類型論
 類型(タイプ)論は、精神医学を出発点として、主にドイツで発展してきた。精神科医が臨床上の経験と洞察に基づいて人間の典型例を示したもので、直観的に理解しやすい面を持つ。
【1】クレッチマー
※(8)
人間の体型と気質を関連付け、痩せ型には真面目で繊細な分裂気質、肥満型には社交的で現実的な躁鬱気質、筋肉質型には義理堅い粘着気質が多いと説いた。
【2】ユング
心的エネルギーが主体に向かうか客体に向かうか(向性)によって、人間を内向型 - 外向型に分類できるとした。さらに、心的エネルギーの機能(働き)の形式を思考・感情・感覚・直観の4つに分け、思考・感情を合理的判断機能、感覚・直観を非合理的判断機能とした ※(9)。この4タイプは、各人が行動の選択にあたってどの機能を優先させているかにより考えられたものである。ユングは、3つの向性と4つの機能を組み合わせて、8タイプの性格類型があることを示した。
《 ユングの8類型とその典型的人物像 》
機能 / 向性外向性内向性
思考 有能な弁護士 大著をもつ学者
感情 人のあしらいの上手な料亭の女将 謎めいた音楽家
感覚 成功している実業家 古代美術の権威
直観 切れ者のエンジニア 詩人
『心理学 第3版』東大出版会
【3】シュプランガー
※(10)
人間が人生の中でどの生活領域の価値を志向するかによって、論理型・経済型・権力型・審美型・社会型・宗教型という6つの性格類型を提案した。
(4) 特性論
 人間のパーソナリティをより細かい複数の特性に分け、それらの程度の組み合わせによって、全体を説明しようと試みる手法を特性論という。個々人の差異は、ある特性が高いか低いかといった量的な差異として表現される。 ※(11)パーソナリティの記述に使われてきた語彙の分析と、質問紙法による調査を通じて、さまざまな特性を5つの大因子に分類したビッグファイブ論が有名である。
《 ビッグファイブ論 》
病理的傾向一般的特徴名称一般的特徴病理的傾向
無謀積極的外向性 - 内向性控えめ臆病・気後れ
集団埋没親和的愛着性 - 分離性自主独立的敵意・自閉
仕事中毒目的合理的統制性 - 自然性あるがまま無為怠惰
神経症敏感 情動性 - 非情動性情緒安定感情鈍麻
逸脱・妄想遊び心がある遊戯性 - 現実性堅実権威主義
行動主義心理学から認知心理学へ
 行動主義心理学は、観察可能な「行動」を研究対象とし、科学的心理学をめざす学問である。
 行動主義心理学の祖ワトソン(1878~1958 アメリカ)は、臨床上の経験と洞察に基づく精神分析学や、自身の精神状態を観察する内観法に基づく20世紀初頭の心理学に異を唱えた。心理学が科学であるためには、客観的に観察可能な「行動」を対象とすべきと考えたのだ。ワトソンは、人間の行動とは「刺激」に対する「反応」であるとし、たとえば、学習者にどのような刺激を与えれば、学習という反応がより円滑に進むのかを探ろうとした。
 ところが、人間は同じ刺激を受けても、毎回同じ反応を示すわけではない。思考という過程を経て、同じ刺激に対しても多種多様な行動を選び取っている。
 心理学の対象は、再度、行動に直接現れない心の中での過程に戻り、そうした思考を「刺激に対する反応を制御する過程」として考える認知心理学が主流となった。その制御過程は、主にを媒介として行われる。認知心理学は、知覚、記憶、思考、言語といった従来の心理学の概念を、神経細胞からなる人間の脳というハードウェアが、どのように情報を処理しているかという観点から探究しようとしている ※(12)。コンピュータそのものや情報科学、脳科学や神経科学の発展は目覚ましく、その成果との関わりの中で認知科学とよばれることもある。
  • 欲求不満 → ①合理的解決 ②近道反応 ③防衛機制
  • 欲求の対立 → 葛藤接近 - 回避型接近 - 接近型回避 - 回避型
  • パーソナリティ = 知能)+情・意性格
↑ 類型(タイプ)論特性論による分析
注釈
(1) アンナ = フロイト(1895~1982)
フロイトの娘。イギリスで精神分析家として活躍した。無意識よりも自我の働きを重視した、自我心理学を提唱。児童精神分析を開拓した。
(2) 接近 - 回避型
「A君とB君に告白されたが、ふたりとも長所と短所があるので決めかねる」といった二重の接近 - 回避型の葛藤も考えられる。
(3) クライエント(来談者)
心理相談の対象を患者ではなくクライエントと称したのもロジャーズが最初である。
(4) カウンセリング
カウンセリングは、英語のcounsel(相談・助言する)を語源とし、神経症などの軽度の心理的な症状や人間関係などの悩みについての援助を目的とする。精神医学的な障害の治療を主な目的とする心理療法や精神療法をセラピーとよんで区別する場合もある。
(5) パーソナリティ
パーソナリティ(personality)の語源は、劇で使用する「仮面」を意味するラテン語のペルソナ(persona)。転じて、役者が演じる役割や役を演じる人自身、さらに、ある特徴を持った人を意味するようになった。
(6) 情・意的な個人差
情・意的な個人差のうち、個人遺伝的素質ないしは生理的特質を指して気質という用語が用いられることもある。
(7) パーソナリティ
一般的には、性格とパーソナリティをほぼ同じ意味で用いることが多い。なお、以前はパーソナリティを「人格」と訳していたが、倫理的なニュアンスが含まれてしまうため、適切ではない。
(8) クレッチマー(1888~1964)
ドイツの精神病理学者。主著『性格と体格』。
(9) 非合理的判断機能
現代の若者には、情報社会化・消費社会化の影響により、非合理的判断機能を優先させる感覚型と直感型が増えているといわれている。
(10) シュプランガー(1882~1963)
ドイツの哲学者・心理学者・教育学者。主著『生の諸形式』。
(11) 個々人の差異を量的に表現
ロールプレイングゲームを例にとると、Aという攻撃力が強いキャラクターを「攻撃力10、防御力3、スピード5」とし、Bという防御力が強いキャラクターを「攻撃力3、防御力8、スピード7」などと表現すること。
(12) 認知心理学の今後
認知心理学は、従来の心理学の概念を脳の情報処理の観点から探究しようとしている。認知心理学にとっては、感情・パーソナリティ・発達などの領域は、今後の課題であり、臨床医学・社会学・哲学などの研究成果の交流が望まれている。
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◇ 01 人間とはなにか

  • 人間は理性を持つが、無意識の心の働きにも影響されていることを理解しよう。
  • 適応行動とパーソナリティの分析を理解しよう。
  • パーソナリティ形成における、社会化と個性化の理論を理解しよう。

③ 社会の中の人間

パーソナリティの形成
(1) 形成をめぐる議論
 パーソナリティがどのように形成されるかは、氏か育ちか、本能か経験か、先天的か後天的かなどと問われてきたが、これらは「遺伝によるものか、環境(学習)によるものか」という問いに集約できる。しかし、今日では両者が相互に影響し合って形成されるという考えが一般的になっている ※(1)
(2) 形成の過程
 右図の気質は、パーソナリティの中の感情に関わる面の遺伝的・生理的要素を重視したものである。この外に2~3歳頃までに意志や行動の特性としての性格の基礎がつくられる。その上には、家庭でのしつけや学校での日々の行動の積み重ねにより習慣的性格が、さらにその上には、学校(や職場)での部活動や行事での自分の立場に基づく役割的性格が形成されていく。
社会化と個性化と「社会の(再)生産」
(1) 社会化と個性化
 社会化(socialization)とは、個人が社会に適応的に行動できるように、言語・価値・社会的規範などを獲得していく過程のことである。対極には、個人が自分に特有な個性・能力を発揮していく個性化の概念があり、社会化と個性化が調和をもって行われるところに、パーソナリティが成立するとされる。
(2) 社会の生産
 一方、人間は既存の社会を受容しながらも、それに対して主体的に反応し、新たな社会の生産も行っている。社会的コミュニケーションの過程から自我の成立・発達を考察し、その自我が社会に働きかけ「社会を生産」していく過程までを描こうとしたのがミードである。
(3) 相互作用の働き
 ミードは、時間的にも論理的にも、自我に対して社会過程が先にあると考えた。たとえば、子供は親との関係の中に、高校生はクラスメイトや先生との関係の中に置かれている。われわれは、このような他者との相互作用を通して、自我を形成し、社会化と個性化を達成していく。
(4) 第一次社会化
 子供は、自分の要求を調節することにより、それまで要求に応じてくれなかった母親に受け入れてもらえるようになったというような相互作用を通して、一定のパターン(役割)を知ると同時に、自分が他者から期待されている行動をとることができるようになっていく(第一次社会化)。これは、他者の立場から自分を見ることでもあるので役割取得ともよばれる。この役割取得は、音声や身ぶり(言語)によって可能になるコミュニケーションである。
(5) 第一次社会化から第三次社会化へ
 第一次社会化では、主として母親が子供にとっての重要な他者であり、子供は母親とのやりとりを通して、その背後にある文化や行動様式を取り入れていく。また、役割取得の成立には、他者との役割を演じることが要求される「ごっこ遊び」や「ままごと遊び」(プレイ)も関連していると考えられている。役割取得ができれば、自分の行動を他者の期待に添って調整できるので、他者との円滑な相互作用が可能になる。
(6) 第三次社会化
 さらに、子供は成長するにつれて、野球などのゲーム ※(2)に参加することを通して、一般化された他者からの自分に対する期待(役割)をも内面化していくことができるようになる(第三次社会化)。そして次第に個人と社会や集団との相互作用も可能になっていく。
(7) 客我(Me)
 ミードは、自分の中に取り入れた他者の態度(とみなしたもの)の組織化されたセットを客我Me)とよんだ。客我とは、すなわち「わが内なる他者」である。人間はコミュニケーションによって他者の態度(Me)を受け入れ、その結果、社会化されていく。つまり、やってはいけないことを学び、他人とのつきあい方のルールを学び、何をすれば他者から評価されるかを知るのである。
(8) 主我(I)
 ところが、一方で、この客我に対して自己の内部に新しい反応が生じる。ミードはこれを「主我」(I)とよんだ。主我は、他者の期待に対する個性的な反応であり、新しいものをつくり出す創造性を持つ。そして、この反応が「社会の生産」に結びつくのである。
パーソナリティ
遺伝的要素+環境的要素
社会化+個性化の調和により成立
ミード


社会化=役割取得
客我Me)による社会化の達成
主我I)が生まれ、新たな社会の生産
注釈
(1) パーソナリティは遺伝か環境か?
心理学では、一卵性双生児と二卵性双生児の性格形成の研究などがなされてきたが、パーソナリティの特性のうち、遺伝だけで決まるものや環境だけで決まるものは、一つも見出されていない。
ミード
- George Herbert Meed [1863~1931]
 アメリカの社会心理学者・哲学者。ベルリン大学に留学しヘーゲル哲学などを学んだ後、新設のシカゴ大学に赴任し、デューイとともに後期プラグマティズムのシカゴ学派を形成する。心理学者としては、ジェームズらの影響下に社会行動主義を提唱し、アメリカ社会心理学の祖となった。主著『精神・自我・社会』。
対他関係の中でのパーソナリティ形成
 人間は、たった一人で生きている存在ではなく、他者とともに社会の中で生きていく存在である。
アリストテレスは、「人間は本質的にポリス的動物である」と述べ、ポリスという多元的共同体を営む人間にとっての倫理について考察した。
マルクスは、「人間の社会的存在がその意識を規定する」と述べ、土台となる経済構造を変革することで、人間を解放しようとした。
和辻哲郎は、西欧近代思想のように独立した個人を出発点に社会や人間関係を考えるのではなく、人間を他者や社会の中で捉え、「人のあいだ」で生きている人間というものを間柄的存在とよんだ。
ジェームズは、「人は関わりのある人の数だけ社会的自己を持つ」と述べ、身体や心的能力だけでなく、衣服・家・家族・友人・仕事など「自分のもの」とよぶことができるすべてが客体としての自己を構成するとした。
(2) ゲーム
「ごっこ遊び」は、localな(その場に固有な)了解事項のもとでなされる遊びなので、メンバーが替われば遊びが成立しなくなる。しかし野球はメンバーが替わっても、normalな(どこででも通じる)ルールの下、たとえば2番バッターの役割を演じることで、遊びを楽しむことができる。
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◇ 02 青年期と自己形成

  • 身体的・心理的・社会的発達の面から青年期の特質を理解しよう。
  • アイデンティティが持つ自我同一性と存在証明という2つの考え方を理解しよう。
  • 人生を生きる意味についてのさまざまな考え方を知ろう。

① 青年期とは何か

児童期と青年期への関心から生まれた発達心理学
(1) 児童心理学の誕生
 18世紀の中頃、ルソー『エミール』の中で、乳母による子育てを一般的としていたフランスの貴族たちに対し、子ども ※(1)についてよく知るべきだと諭した。この流れを受けて、ようやく近代になってから、児童研究が盛んになり、児童心理学が生まれた ※(2)
(2) 青年心理学の誕生
 それに対して、青年期への関心は、産業革命を契機にあらわれてきた。それ以前の手工業時代には、子どもも貴重な労働力とされたため就学時間が短かったが、近代工業に従事する労働者は、必要な知識や技術を身につけるために就学期間が長くなった。ここに、子どもでも大人でもないが労働に携わるという青年期が出現し、特に19世紀終盤から20世紀初頭にかけてアメリカで青少年問題が噴出したことを契機に、青年心理学 ※(3)がおこった。
青年期の特質
(1) 身体的発達
 青年期に入ると、身長や体重が急激に増加し、第二次性徴 ※(4)があらわれる。自分の意思とは無関係に起こるこの変化を、フランスの思想家ルソーは、『エミール』の中で第二の誕生とよんだ。
第二の誕生
 わたしたちは、いわば2回この世に生まれる。1回目は生存するために、2回目は生きるために。はじめは人間に生まれ、つぎには、男性か女性に生まれる。……自然によって定められた時期にそこ(子どもの状態)からぬけだす。そして、この危機の時代は、かなり短いとはいえ、長く将来に影響をおよぼす。……気分の変化、たびたびの興奮、たえまない精神の動揺が子どもをほとんど手におえなくする ※(5)まえには素直に従っていた人の声も子どもには聞こえなくなる ※(6)。……かれは、子どもでも大人でもなく……。これが私のいう第二の誕生である。ここで人間はほんとうに人生に生まれてきて、人間的ななにものも彼にとっては無縁ではなくなる。
エミール』(今野一雄・訳 岩波書店)
(2) 心理的発達
 青年期は、心理的な面での発達の時期でもある。自分の存在を外界から切り離された一つの世界として意識し始め、自我のめざめがみられる。それは疾風怒濤期ともいわれる不安定な時期でもある。
(3) 社会的発達
 青年期は親子関係や友人関係などの社会的な面でも大きな変化がみられる。親や教師などから精神的に自立しようとする時期である心理的離乳 ※(7)をむかえる。また自立への欲求が増大する結果、大人に対して拒否的になることもあるため、第二反抗期ともいわれる。
レヴィンによる青年期の定義
 アメリカで活躍した心理学者レヴィンは、青年期は児童期から成人期への移行の時期であり、青年は両集団への境界・へり(margin)に位置し、両集団にまたがる存在であるとして、マージナル = マン(marginal man 境界人周辺人)とよんだ。この見方は、青年期を、子どもでもなく大人でもない中途半端な時期とみているのではなく、未来へとつながる独自の意義と課題をもつ重要な時期とみているのである。
ゲシュタルト心理学
 ゲシュタルト心理学は、人間の心理を、部分や要素の集合ではなく、全体性や構造を持つものと捉える立場をいう。この全体性を持ったまとまりのある構造をドイツ語でゲシュタルト(Gestalt:形態)とよぶ。行動主義心理学では、猿は試行錯誤の末に棒を持ったと解釈していたが、ゲシュタルト心理学以降は、猿は全体を見渡し洞察したうえで棒を持ち、天井からぶら下がったバナナを取ったと解釈している。
青年期
第二の誕生ルソー)、疾風怒濤期心理的離乳第二反抗期
青年
マージナル・マン=境界人・周辺人(レヴィン
注釈
(1) 子ども
フランスの歴史家アリエスが、『〈子供〉の誕生』において指摘したように、子どもが大人によって守られ教育されるべき未熟な存在として認識されたのは、近代に入ってからのことであった。
(2) 児童心理学
発達心理学は、まず児童心理学として始まった。観察と実験から、幼児期の認知と思考の特色を自己中心性とした、スイスのピアジェ(1896~1980)の研究などが有名。
(3) 青少年問題と青年心理学
徒党を組んで集団で万引きを行うなどで仲間意識を高めようとする少年期は、ギャングエイジ徒党時代)と名付けられ、より内面へと関心が向かう青年期に移行していく段階と分析された。
(4) 第二次性徴
生まれたときに男女の身体の違いがあらわれていることを第一次性徴というのに対し、男子は髭が伸びたり肩幅が広くなったり、女子は身体に丸みを帯びるなどの思春期に入ってからの変化があらわれることを第二次性徴という。
(5) 疾風怒濤期
この部分は、疾風怒濤期(Strum und Drang シュトゥルム・ウント・ドランク)とよばれる青年期の特質を表現しているともいえる。もとは、啓蒙主義の理性重視に対し、個性や感情の尊重を訴えたドイツにおけるゲーテなどの文学革新運動を指す言葉であったが、やがて青年期そのものを指すようになった。
(6) 第二反抗期
この一文は、第二反抗期とよばれる青年期の特質を表現しているともいえる。「第二反抗期」という言葉は、ドイツの心理学者シャルロッテ = ビューラー(1893~1974)が、幼児期の反抗期に対して、青年期も反抗期であることを指摘して命名した。
(7) 心理的離乳
アメリカの心理学者ホリングワース(1880~1939)が、1歳前後の生理的離乳にならって命名。ホリングワースは、すべての青年に「家族の監督から離れ、一人の独立した人間になろうとする衝動」があらわれるとした。
レヴィン
- Kurt Lewin [1890~1947]
 ドイツ出身、ユダヤ系の心理学者。ゲシュタルト心理学の立場から場の理論(人間を周囲の生活空間との関わりから捉える理論)を用いて、人間行動の理解を試みた。主著『人格の動的理論』。
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◇ 02 青年期と自己形成

  • 身体的・心理的・社会的発達の面から青年期の特質を理解しよう。
  • アイデンティティが持つ自我同一性と存在証明という2つの考え方を理解しよう。
  • 人生を生きる意味についてのさまざまな考え方を知ろう。

② 青年期の課題

青年期の発達課題
 人間が発達の各段階で達成しなければならないとされる課題を発達課題という。青年が大人になるにあたって必要なものとは何だろうか。
(1) オルポートの説
 オルポート ※(1)は、大人としての成熟したパーソナリティの条件として、自身の内的世界ではなく社会的領域へと自己を拡大すること、自己を客観視できること、人生観の確立など6つをあげた。
(2) ハヴィガーストの説
 ハヴィガーストは、発達課題の考え方を提示し、青年期の発達課題として10項目の課題リストを作成した ※(2)
エリクソンによる青年期の考察
(1) アイデンティティ
 エリクソンは、青年期に達成することが主な課題である自我が統合された状態を、アイデンティティとよんだ。アイデンティティは、自我同一性(ego identity)や主体性と訳される。それは「私は他の誰とも違う自分自身であり、私はひとりしかいない」という独自性の感覚と、「いままでの私もこれからの私もずっと私であり続ける」という一貫性の感覚からなる、安定感、安心感、自信を意味している。
(2) 自己同一性
 エリクソンは、自我同一性と区別して、自己同一性(self identity)という社会的・対人的側面を重視した概念も用いている。この自己同一性は、「わたしとは何者であるかをめぐるわたし自身の観念」である個人的同一性と、「わたしとは何者であるかと、社会および他者が考えているとわたしが想定する、わたしについての観念」である社会的同一性が一致するところに確立される ※(3)とした。すなわち、自己同一性の感覚をもつには、他者からの承認が必要になってくる。
(3) アイデンティティの危機
 青年期臨床の場で、統合失調症や自殺志願の若者たちに出会ったエリクソンは、これをアイデンティティの危機と捉え、アイデンティティ拡散症候群とよんだ。エリクソンは、この危機は個人的同一性と社会的同一性が一致すれば解消するだろうと仮定する統合仮説の立場に立った ※(4)
(4) ライフサイクル
 エリクソンも発達課題の考えを取り入れ、人間の一生を一連のライフサイクル人生周期)と捉え、人間は発達段階ごとの課題を段階的・漸進的に達成して自己を実現していくと説いた。エリクソンは最終的にそれを8つの発達段階に分け、発達心理学を確立した。現代では、先進諸国の高齢社会化を受けて、発達心理学は成人期・老年期までも含んだ一生涯に渡るべきだという機運が高まっている ※(5)。たとえば、子育てを終えた専業主婦が、自分の人生の意味を見失う空きの巣症候群に陥る状態は、中年期以降のアイデンティティの危機といえる。
生きる意味 ― 自己実現・生きがい・希望 ―
(1) マズローの説
 エリクソンがアイデンティティの確立とよんだものを、ロジャーズやマズロー ※(6)などの心理学者は、自己実現とよんだ。マズローは、右の図に示したような欲求階層説の立場をとり、ある階層の欲求はそれより低次の階層の欲求が満たされなければあらわれないものとした。この階層のもっとも高次にあるのが自己実現の欲求であり、この欲求をもって生きている人は、現状に安住することなく、積極的に現状否定と自己否定を繰り返し、創造的に生きるものとした。
≫ マズローの欲求階層説
 人間の欲求は欠乏欲求と成長欲求からなる。欠乏欲求は①食欲・性欲・睡眠欲などの生理的欲求、②安全の欲求、③所属・愛情の欲求、④他者からの尊敬・自尊の欲求という4つの欲求からなり、これらが満たされてはじめて活性化するのが、成長欲求とされる自己実現の欲求である。
(2) 神谷美恵子の説
 精神科医の神谷美恵子は、ハンセン病 ※(7)患者の医療に尽くした自己の経験から、「生きがい感には未来に向かう心の姿勢がある」「最も生きがいを感じている人は、自己の生存目標を自覚し、その目標に向かって全力を注いでいる人である」と述べ、物質的な満足とは異なる精神的な価値に満たされた心の充実感を人間の生きがいとした。
(3) フランクルの説
 オーストリアの精神科医フランクルは、自身がアウシュヴィッツの強制収容所へ収監された経験から、『夜と霧』を書いた。収容所での大量の死は、ナチスによる処刑だけではなく、極限状況の中で生きる意味を失い希望を失った人が病気にかかり自殺してしまったことも原因であった。フランクルは、人間はどのような状況でも生きる意味を見出すことが可能であり、そのためには、「私は人生に何を期待できるか」ではなく、「人生は私に何を期待しているのか」を問うことが大切だと説いた。
マイノリティにとってのアイデンティティ(=存在証明) ※(8)
 アメリカの社会学者ゴフマン ※(9)は、われわれがその場その場の他者との相互行為の場面で、アイデンティティというものを、提示し present、演じ perform、管理して manage いると指摘した。このようなアイデンティティ操作の必要性に迫られるのは、「傷付けられたアイデンティティ」の持ち主である社会的マイノリティであるとして、アイデンティティ管理の戦略を4つに類型化した。
【1】印象操作 ……………
一定の場に相応しい自分を演出するため、「真の自分」を隠そうと外見を装うこと(なりすまし)。外見だけからはわからない、ユダヤ人など。
【2】補償努力 ……………
帰属集団から自分だけ一抜けするための戦略。「(研究ばかりしていて運動の時間はあまりとれないはずの)学者なのにスポーツ万能」など。
【3】開き直り ……………
「わたしはこのままでいいんだ」とする解放戦略。政治においては、社会変革に結びつかず、現状の範疇の政治だけで終わってしまう危険性もある。
【4】価値剥奪 ……………
以上のすべての戦略が失敗した後、相対的により弱者である社会的カテゴリーの人々の価値を奪うことによって、自らの社会的アイデンティティを相対的に高めようとする。ドイツにおいて、無職のドイツ人の若者が移民差別を繰り広げる事態など。
エリクソンアイデンティティ=「自分が自分である」という確信
自我同一性独自性一貫性
自己同一性他者からの承認個人的同一性社会的同一性の一致)
注釈
(1) オルポート(1897~1967)
アメリカの心理学者。フロイトの精神分析学は、病的状態にある人の心理状態の研究に偏っており、行動主義は、実験や統計によって人間の心理を分析しようとしていると批判。正常な人のパーソナリティの成長を日常生活の中で理解しようとした。
(2) ハヴィガーストの発達課題
アメリカの心理・教育学者ハヴィガースト(1900~91)が作成した課題リストは、「配偶者を選ぶこと」を壮年初期の発達課題にあげていることなどから、1940年代のアメリカ中流白人の価値観を前提にしているという指摘がなされている。
エリクソン
- Erik H.Erikson [1902~94]
 発達心理学者。若き日は画家をめざしてヨーロッパ各地を遍歴していたが、25歳の時、ウィーンでフロイト親娘も関わっていた私立学校の美術教師の職を得て、アンナ・フロイトから教育分析を受ける。31歳の時、児童分析家としての独立をめざし、デンマークを経て、妻の故国アメリカへと渡る。のちに『幼児期と社会』で示したアイデンティティ概念が受け入れられ、著名な大学教授の一人に名を連ねた。主著『幼児期と社会』『アイデンティティとライフサイクル』など。
(3) 自己同一性 =
個人的同一性と社会的同一性の一致
たとえば、高学歴の家族や親族の中に生まれ育った劣等生の少年は、周囲の大人からはその存在を承認してもらいにくく、「自己同一性」の確立が困難だというケースを想定してみよう。
(4) 統合仮説
近年、エリクソンの統合仮説は、労働市場の流動化・消費社会の進展といった現実の中で、保守的すぎる見解であり、両者を統合することができるのは社会的強者だけではないかという見方も出てきている。
(5) 生涯に渡る発達心理学
特に、人間が一生涯を通して発達することを強調したい場合は、生涯発達心理学とよぶ。一方、われわれはその都度アイデンティティを問われているという視点で考察すべきだという指摘もある。
(6) マズロー(1908~70)
実存的・人間主義的心理学の立場に立つ、アメリカの心理学者。
(7) ハンセン病
らい菌の末梢神経侵入によっておこる感染症。らい菌を発見したノルウェーの医師の姓から、ハンセン病とよばれるようになった。かつては不治の病とされ、隔離政策がとられてきたが、新薬が発見され、完治するようになった。それにもかかわらず、日本では、法的措置が取られず隔離政策の廃止が遅れ(1996年)、患者に対するホテルの宿泊拒否など、差別や偏見による人権侵害が問題となっている。
神谷美恵子
- Kamiya Mieko [1914~79]
 女子大を卒業した後、女子医大で精神医学を学び直し、瀬戸内海に浮かぶ長島のハンセン病患者の療養所で精神科医として勤務する。著書『生きがいについて』は、その経験をもとに書かれたものである。
フランクル
- Viktor Emil Frankl [1905~97]
 フロイトから精神分析学を学んだが、実存哲学の影響を受け、人間を「生きる意味を求める存在」と捉える実存分析を提唱する。ユダヤ人であったため、強制収容所へ送られたが、奇跡的に生還した。主著『夜と霧』。
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◇ 03 現代社会における青年

  • 青年期は普遍的なものではなく、産業革命後に出現してきたことを理解しよう。
  • 青年期のあり方の積極的な意義と、それに対する批判的な考え方を理解しよう。
  • 戦後日本社会の変化の中での青年像の受容を把握しよう。

① 青年期のあり方

ミードの説
 アメリカの文化人類学者マーガレット = ミード ※(1)は、サモア諸島でのフィールド・ワークの結果、文明社会にみられる青年期の葛藤が、サモアには成立しないことを見いだした。つまり、青年期の存在自体は普遍的・超歴史的なものではなく、そのあり方は社会や文化のありようによって、大きく異なってくるのである。
産業革命以前
 産業革命以前の社会では、第二次性徴の直後に、恐怖や肉体的苦痛の克服を求める通過儀礼イニシエーション ※(2)が行われ、これを乗り越えることで若者はおとなの仲間入りをしていた。
産業革命後
(1) モラトリアム
 産業革命後に青年期が出現した理由として、第一には、労働者として学ぶべき知識や技術が増大したことがあげられる。それにより若者たちは「学校」に囲い込まれることになった。第二の理由としては、経済的に豊かになったことで、社会に余裕ができ、就労までの期間が延長されてきたことがあげられる。エリクソンは、このような青年期のあり方をモラトリアム猶予期間 ※(3)とよんだ。青年期は、おとなに求められる労働や家庭を守るといった義務や責任を免除され、遊びや放浪などを通して、友人や恋人との関係の中で、アイデンティティを確立することがその大きな課題であるとした。
(2) モラトリアム批判
 このような「モラトリアムに少しでも長く留まっていたい」という若者が増えてきたことへの批判として、モラトリアム人間 ※(4)ピーターパン・シンドローム ※(5)という言葉が生まれた。その後も、青年期の長期化は確実に進行しており、30歳成人説が説かれるようになってきている。一方で、フリーター ※(6)ニート ※(7)の若者たちは、自分の人生を未決定のままにしておくために正社員ではなくフリーターを選んでいるのではなく、また労働を回避するためにニートになったりしているわけではないとして若者を擁護する見方も出てきている。非正規雇用の拡大を阻止し、若者の自立を促す政策やセーフティネットの構築を求める声があがり始めている。
注釈
(1) マーガレット = ミード
(1901~78)
アメリカの文化人類学者。主著『サモアの思春期』。
(2) 通過儀礼(イニシエーション)
ルーマニアの宗教学者エリアーデ(1907~86)の『聖と俗』によれば、通過儀礼では、おとなとして再生するための条件として、死の疑似体験が課されていたという。たとえば、フィジー諸島では、バンジージャンプの原型となった儀式が若者に課されていた。
(3) モラトリアム(猶予期間)
もとは「債務の支払い猶予」を意味する経済学用語であったが、エリクソンが、心理的・社会的猶予の意味で使い始めた。
(4) モラトリアム人間
日本にエリクソンを紹介した精神科医の小此木圭吾は、『モラトリアム人間の時代』で、おとなになることを拒否する若者の増加を指摘した。
(5) ピーターパン・シンドローム
アメリカの心理学者ダン = カイリーは、『ピーターパン・シンドローム』で、おとな社会への仲間入りができない若者を分析した。
(6) フリーター
フリーターの多くは、夢の実現のためにアルバイトをしているのではなく、できれば正社員になりたい「止むを得ず」型が増えている。
(7) ニート
NEET = Not in Employment, Education or Training の略。職業に就いておらず、学校にも所属せず、職業訓練など就労に向けた活動をしていない15~34歳の者。
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◇ 03 現代社会における青年

  • 青年期は普遍的なものではなく、産業革命後に出現してきたことを理解しよう。
  • 青年期のあり方の積極的な意義と、それに対する批判的な考え方を理解しよう。
  • 戦後日本社会の変化の中での青年像の受容を把握しよう。

② 戦後日本社会と若者

世代論 = コーホート(同時期出生集団) ※(1)ごとの分析
(1) 団塊の世代
 団塊の世代は、狭義には1947~1949生まれの世代をいう。第一次ベビーブーム世代 ※(2)ともよばれる。政治に関心を持ち、理想を高くかかげて闘った。「自己否定」「大学解体」をかかげた全共闘 ※(3)運動の敗退(1969年)は、若者文化ユースカルチャー)のおとな文化や企業文化からの敗退を意味した。
(2) シラケ世代
 シラケ世代は、1950年代後半に生まれ、1970年代中後期に青年期をおくった世代。無気力・無関心・無責任という若者の三無主義が問題となった(無感動を入れて四無主義といわれることもある)。
(3) 新人類世代
 新人類世代は、1960年代前半に生まれ、1980年代に青年期をおくった世代。60年代後半に始まった高度経済成長は、社会を「理想」の時代から「虚構」の時代へとシフトさせた。80年代に入り本格的な消費社会に突入し、若者たちの間では、記号としての商品を消費することにより、他者との差異を示し、それをアイデンティティとする作法が一般化した ※(4)
(4) 団塊ジュニア世代
 団塊ジュニア世代は、1970年代前半に生まれた世代。第二次ベビーブーム世代ともよばれる。この世代以降、オタク ※(5)という言葉に象徴される若者のあり方も、批判的に語られるようになった。傷つきやすい脆弱な自我に固執し、他者との関係が希薄になってきているという指摘がある。記号的消費を通して、関係をつくる新人類的手法を採用できたのは、コミュニケーション能力の高い若者であった。コミュニケーション能力の低い若者は、対人関係を避け、メディアの世界にのめり込むという行動によって、何とか居場所を得ようとしていると分析されている。
(5) ロスト・ジェネレーション
 団塊ジュニア世代が大学を出て、就職活動を始めた92年頃より、「バブル経済の崩壊」が本格化し、就職氷河期となった。「失われた10年」の間におとなになった世代ということで、ロスト・ジェネレーション ※(6)とよばれる。終身雇用制は崩れ、フリーターや派遣労働といった、社会保険に加入できない非正規雇用者(プレカリアート)も多く現れた。一方で、正社員の労働時間は、年間1800時間をやや下回る程度であり、これ以外にサービス残業も行われているとされる ※(7)。若年労働者の早期転職も増えている。
《 年齢階級別にみた正規、非正規の職員・従業員の割合(平成22年):『労働調査』 》
《 1人当たり平均年間総実労働時間(雇用者):『国際労働比較』 》
日本アメリカカナダイギリスドイツフランス
19951,9101,8491,7611,7131,4571,542
20001,8531,8361,7631,6981,3871,491
20051,8021,8011,7351,6661,3541,466
20101,7541,7861,7041,6201,3401,469
文化志向から関係性志向へ
(1) 対抗・下位文化の喪失
 戦後の若者文化を特徴づけたものは、対抗性と下位性であった。支配文化に対する対抗文化カウンターカルチャー)という側面は、全共闘の敗北によって陰をひそめた。また、おとなの主要文化・上位文化に対する若者独自の下位文化サブカルチャー)という側面も、ファッションであれアニメ・コミックであれ、たえず商品化され広く普及することによって他の世代にも浸透していき、下位性を失っていった。
(2) 関係性志向
 現在の若者にみられる携帯メールの多用やお笑いブームなどをとっても、新たな価値観やライフスタイルの提示が認められるわけではない。方向性としては、若者に固有の文化というものを見いだすことはできなくなってきている。そうした中、身近な友人・仲間・恋人などとの「純粋な関係性 ※(8)を重視することこそが、現在の若者の特質という見方が出てきている。
 このような「純粋な関係性」は、今後、具体的にはどのような姿として描かれていくだろうか。当然、従来の家族・職場・地域といった人間関係の再構築が求められていくであろう。そして、それらに加え新たに注目されてきているのが、音楽やスポーツ等の趣味縁やインターネット上でのSNSソーシャル・ネットワークサービス)等を介したつながりである。そこでは、年齢・職業・居住地域などの違いを越えて、人々が結びつき始めている。従来の「同質性」をベースにした人間関係だけではなく、「差異」を大事にした新たな「関わり合い」が期待されてきているのだ。今後は、更にお互いの「」や「かげがえのなさ」を尊重しあえるような相互承認が重要になってくるだろう。
産業革命前
青年期は存在せず、通過儀礼イニシエーション)のみ
産業革命後
青年期の誕生
現代
モラトリアム(猶予期間)の延長
若者文化
対抗文化カウンターカルチャー)・下位文化サブカルチャー)という特質を失う ⇒ 「純粋な関係性」を求める
注釈
(1) コーホート(同時期出生集団)
近年、社会学や社会心理学の領域で盛んになってきているライフコース論の用語。アメリカの発達心理学者エルダーの『大恐慌の子どもたち』以後用いられるようになった概念である。
(2) 第一次ベビーブーム世代
この世代にあたる1948年生まれは約260万人いたが、2008年生まれは110万人を切っている。
(3) 全共闘
全学共闘会議の略称。政治党派に属さない一般の学生たちが広く連帯し、アナーキー的な反逆あるいは一揆的爆発のような雰囲気の中で、大規模な運動が展開された。
(4) 差異によるアイデンティティ
たとえば、全共闘運動では、自分らしい服を着て真の自分を表現するために学校の制服を廃止しようとしたが、新人類世代以降は、制服もおしゃれの一つとして楽しむようになってきている。
(5) オタク
語源は、アニメやマンガ、ゲームやアイドルなど、ある種のジャンルの熱烈なファン同士が、たがいにコミュニケーションが苦手であるため、たがいを名前ではなく「お宅」と呼び合っているらしいという話からきている。
(6) ロスト・ジェネレーション
第一次世界大戦を経験し、既成の価値観に否定的になったヘミングウェイやフィッツジェラルドなどパリで暮らすアメリカ人小説家たちが、酒や享楽に溺れる「自堕落な世代」という意味で、「失われた世代」とよばれたのが由来。
(7) 長時間労働とサービス残業
豊かな余暇生活を確保するためには、長時間労働の正社員と短時間しか働かせてもらえない非正規雇用者との間でのワークシェアリングが課題となっている。
(8) 純粋な関係性
イギリスの社会学者デギンズ(1938~)が、『親密性の変容』の中で用いた言葉。若者の人間関係は、情報・消費社会化が進展する中で、希薄化しているわけではなく、より選択的になっていると指摘した。
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◇ 01 古代ギリシアの思想

  • 根源を探究する古代ギリシアの思想を理解しよう。
  • 真理のために真理を愛するギリシア的精神を学ぼう。
  • 優れたポリスをつくるために正義を求めたギリシア精神を学ぼう。

① 神話から哲学へ

ポリスと市民
(1) ポリス
 紀元前8世紀頃、ギリシア人は多数のポリス ※(1)を形成した。ポリスは市民の生活の基盤であり、市民たちは民会や宗教的行事に参加し、戦時には戦士としてポリスを守るために戦った。
アクロポリス
 ポリスはアクロポリスとよばれる小高い丘を中心に広がり、アクロポリスには守護神を祭る神殿があった。また丘の麓には公共の施設や市場を擁するアゴラ(広場)があり、市民の生活はここを中心に営まれた。
(2) カロカガティア
 ギリシア人は善と美を兼ね備えていること(カロカガティア)を理想とした。善美を備えるとは、秩序(コスモス)と調和(ハルモニア ※(2)がとれているということである。善美を備える人間こそギリシア人が理想とする人間であった。
(3) ポリスの倫理
 ギリシアの人間観・倫理観は、ギリシア神話叙事詩ギリシア悲劇にみることができる。
【1】ホメロス
……
叙事詩『イリアス』において、主人公アキレウスをはじめとする英雄たちの姿と行動を通して、理想の生き方のモデルを示した。英雄たちは神々の思惑によって翻弄されつつも、自らの意志によって力強く行動する。神々は不死であるのに対して、英雄(人間)は死すべきものとされ ※(3)、この世のはかない生を嘆きつつも誉れある死を望んで戦っている。
【2】ヘシオドス
……
叙事詩『神統記』において、世界の生成やギリシアの神々について説明することを試みた。また叙事詩『仕事と日々』では労働の意義を説き、怠惰は不正であり、労働によって生計を立て、進んで財を得るべきだと述べている。
【3】アイスキュロス
ソフォクレス
エウリピデス
……
ギリシア三大悲劇詩人として活躍した。彼らは作品の中で、過酷な運命にあいながらも崇高な世界を求める人間の姿を描いた ※(4)
《 古代ギリシアの主なポリスと思想家の出身地 》
学問的・哲学的な説明の探究
(1) 神話から哲学へ
 紀元前6世紀の初め、ギリシア人の思想の探究は、神話ミュトス)による説明から、人間の理性ロゴス)に基づいた、真に学問的・哲学的な説明へと移行していった。ギリシア人は先進の文化をエジプトとメソポタミアから受け入れたが、彼らは先進文化を実用(知識が実際に役立つかどうか)にとらわれず個々の事実を原理にさかのぼって体系化 ※(5)することにより学問を形成した。
(2) テオリアの態度
 ギリシア人は、物事に直接関わるよりも、物事から距離をとり静観的に対することによって、真理を捉えることができると考えた。こうした態度をテオリア観想)という。テオリアは、行動に実践的に関わる態度(=実践、プラクシス)やものを作ること(=製作、ポイエーシス)と区別された。
(3) フィロソフィア
 テオリアによって、実用から離れ自由に真理を求めることから哲学が生まれた ※(6)。哲学のことをフィロソフィアというが、これは知(ソフィア)を愛し求める(フィロ)ことである。
神話的世界観(ホメロスヘシオドスなど) ⇒ 学問的・哲学的な説明 ← テオリアの態度
注釈
(1) ポリス
ポリスは一般に都市国家と訳される。「人間はポリス的動物である」というアリストテレスの言葉は、ポリスがギリシア人の基盤であったことを示している。
(2) コスモスとハルモニア
コスモス(cosmos)は宇宙という意味もあり、天体の運動はコスモス(秩序)の典型であった。一方、数学や音楽は調和(ハルモニア Harmonia)に関わる学問であった。
(3) 人間は死すべきもの
それゆえに限りある生をいかに生きるかという問題も生じた。
(4) 三大悲劇詩人
アイスキュロスには『縛られたプロメテウス』『アガメムノン』、ソフォクレスには『オイディプス王』『アンティゴネ』、エウリピデスには『トロイアの女』『メディア』などの有名な作品があり、現代でも映像となったり上演されたりしている。
(5) 体型的な学問の形成
原理を追及することから始めて、体系的な学問を形成する方法は「ユークリッドの数学」にその典型をみることができる。
(6) スコレー(閑暇)
ギリシア人らが真理を探究し芸術や政治に参加することを可能にしたのがスコレー(閑暇)である。彼らは一般市民でも奴隷を従えており、労働を奴隷たちに任せることでスコレーを持つことができた。
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◇ 01 古代ギリシアの思想

  • 根源を探究する古代ギリシアの思想を理解しよう。
  • 真理のために真理を愛するギリシア的精神を学ぼう。
  • 優れたポリスをつくるために正義を求めたギリシア精神を学ぼう。

② 自然哲学の誕生とソフィスト

自然哲学
(1) 自然の根源
 哲学はイオニア地方のミレトスなどの諸都市で興った。初期の哲学者たちは主として自然ピュシス ※(1)根源アルケー)について探究したので、自然哲学者とよばれている。
(2) アルケー
 アルケー万物の根源であり、すべてのものがそこから生まれ、そこに帰っていくものと考えられている。現実にあるさまざまなもの(現象)を根源的なもの(原理)から説明しようとするところに古代ギリシア哲学の特徴がある。
アルケー
 彼等はすべての存在者がそれから出来ている物、すなわちそれを最初のものとしてそこから生じ、またそれを最後のものとしてそれへと滅んでいくところのそのもの、それを存在者の元素であり、原理(アルケー)であると主張し…
『初期ギリシア哲学者断片集』(山本光雄・訳 岩波書店)
自然哲学者
【1】タレス
……
自然哲学の祖とされるタレス ※(2)は、すべての生命にはが不可欠であるとの考えから、「万物の根源(アルケー)は水である」と述べた。
【2】ヘラクレイトス
……
ヘラクレイトスはアルケーをであるとし、世界は火のように常に生成と消滅を繰り返していると主張した ※(3)。ここから「万物は流転する(パンタレイ)」という名句が生まれた。
【3】デモクリトス
……
デモクリトスは、万物はそれ自身は生成も消滅もしない、物質の最小単位である原子(アトム) ※(4)からなるとし、原子論 ※(5)を主張した。
ソフィストの思想
(1) ピュシスからノモスへ
 紀元前5世紀頃、学問や思想の対象が自然(ピュシス)から人為(ノモス)へ、すなわち法や社会制度へ向けられるという転換が起こった。
(2) ソフィスト登場の時代背景
 ペルシア戦争後、アテネでは民主政治 ※(6)が成立した。それによって家柄や財産のある一部の人間が行っていた政治から、市民全員が参加する政治へと変わり、民会などでの意思決定では政治的知識や弁論術 ※(7)が重視されるようになった。
(3) ソフィスト
 市民の間には政治的知識や弁論術を教えることを職業とする人々が現れ、彼らは自らをソフィスト ※(8)(知恵のある者)と名乗った。
(4) プロタゴラス
 ソフィストの第一人者であるプロタゴラスは、「人間は万物の尺度である」と述べた。ここでの「人間」とは私たち個人のことで、ものごとの判断の基準を決めるのは個人であることを意味している。この頃、真理は個人によって決定されるという相対主義や主観主義が主張された。
(5) ピュシスの正義
 相対主義や主観主義を社会規範や法などのノモス(人為)に応用すると、ノモスの正しさ(正義)は絶対的なものではなくなる ※(9)。ここから、真の正義はピュシス(自然)の正義であり、能力に応じて利益を所有することが正義であるとされた。
自然哲学
自然ピュシス)の根源アルケー)についての研究 ⇒ 自然哲学者の輩出
ソフィスト
自然(ピュシス)から人為(ノモス)へ ⇒ 弁論術の重視 ⇒ ソフィストの登場
注釈
(1) ピュシス(自然 physis)
人工的なものを含めた「万物」を意味している。⇔ノモス(人為 nomos)
(2) タレス
ミレトス出身。ギリシア七賢人の一人とされる。タレスに続いて現れたアナクシマンドロスは、アルケーをト・アペイロン(無限なるもの)と考えた。またアナクシマンドロスの弟子のアナクシメネスは、アルケーを空気と考えた。
(3) 万物は生成と消滅を繰り返す
さらにヘラクレイトスは、生成と消滅は「反対のものは調和(一致)する」というロゴス理法=法則)に従って起こっていると唱えた。
《 自然哲学者とアルケー 》
哲学者アルケー
タレス
アナクシメネス空気
ヘラクレイトス
パルメ=デス
エンペドクレス四元素
(地・水・火・風)
ピタゴラス
デモクリトス原子
(4) アトム(原子 atom)
ギリシア語ではアトモンやアトモスといわれ、「これ以上分割できないもの」を意味する。
(5) 原子論
現実世界の生成と消滅は原子の結合と分離によって起こるとする考え方。原子が運動するためには、そのための空間(空虚)が必要である。それゆえ、世界には存在(充実したもの=原子)と非存在(空虚、無)があるとデモクリトスは主張した。
(6) 民主政治
民衆(デモス)の支配・権力(クラティア)という意味から、デモクラティアという。
(7) 弁論術
弁論術は裁判においても必要なものだった。ギリシアでは裁判が非常に多く、しかも法廷では自分で弁論をふるう必要があった。
(8) ソフィスト
自らを「ソフィスト」と最初に名乗ったのは、プロタゴラスである。そのほかには、シチリアの人で「何も存在しない存在しても認識されえない。認識しても伝達されえない」と懐疑を主張したゴルギアスがいる。
(9) 真の正義=ピュシスの正義
相対主義や主観主義は主観的な立場で語られ、「各個人がそのように思えばそれが真理」となり、その真理は普遍的なものではないからである。
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